小樽築港・小樽運河(北海道小樽市)
今回も土木学会の推奨する近代土木遺産の訪問です。採り上げようとするのは、小樽港北防波堤斜路式ケーソン製作ヤードです。また、小樽まで来て見ないでは帰れない小樽運河にもすこし行ってきましたのでご紹介します。それぞれあまりにも有名ですから、その技術的意義はリンク先をご覧いただくこととして、紀行文的にご紹介してみたいと思います。

写真1は、小樽港南防波堤で、主題の北防波堤は写真の左奥になります。(時間の関係で北防波堤までは足を伸ばせませんでした。)

 
 写真1 小樽港南防波堤(2013年12月4日撮影)

しかし、この南防波堤の根元には北海道開発局小樽開発建設部小樽港湾事務所があり、そこに「みなとの資料コーナー」がありますので見学に行きました。

小樽港湾事務所の最寄り駅は函館本線小樽築港駅です(写真2、3)。きれいな駅ですが、周辺は大きなショッピングセンター以外は高層マンションが並んでいる、すこし寂しい雰囲気の駅です。

小樽は、石狩地方で産出された石炭の積み出しや、ロシアとの交易で栄え、1920年頃までは、人口は札幌よりも多かったそうです。しかし1960年代以降、石炭需要の低下と北海道内の炭鉱の閉山、苫小牧港や石狩湾新港の整備により港としての機能は衰えて、市の人口も最盛期より35%も減少していると言うことです。

その中で小樽築港駅は、防波堤などの港湾工事の基地とするために古く1910年(明冶43年)に開業した駅で、かつては貨物ヤードや小樽築港機関区を擁する大規模な駅であったそうです。

         
   写真2 小樽築港駅ホーム    写真3 小樽築港駅入り口  

駅を出て海岸の国道5号を右の方に約10分ほど歩くと写真4のような案内標識がありますから左に折れて入ります。(案内標識には「おたるみなと資料館」とありますし、写真5の事務所建物にもそのようにありますが、パンフレットや小樽開発建設部ホームページには「みなとの資料コーナー」と、一段小規模な印象の名称になっています。)

         
   写真4 小樽港湾事務所入り口    写真5 小樽港湾事務所と資料館  

中に入ると「資料コーナー」には鍵がかかっていて、インターホンで係の人に「見学者です」と通知するようになっています。通知すると職員の方がいらっしゃり、鍵を開けてくれました。(内部はリンク先(「みなとの資料コーナー」)の動画をご覧ください。)それだけではなく、掲示物や展示物の解説までしていただきました。見学者が私一人であったからかもしれませんが、初代所長で、北防波堤を建設した広井勇(銅像はこちら)と、斜路式ケーソン製作ヤードを考案した第3代所長の伊藤長右衛門のことを丁寧に説明してくれました。(リンク先の銅像説明では「第2代所長」になっていますが、資料コーナーでいただいたパンフレットでは「第3代」になっています。さて?)

広井勇については、あまりにも有名で、土木学会のホームページで「故廣井工学博士記念事業会編『工学博士廣井勇伝』昭和5年発行」を読む事が出来ますし、ご本人の著書も同学会の「戦前土木名著100書」のなかに3件(土木工学関係書の8、13(5巻)、14。)も入っています。伊藤長右衛門についても「伊藤長右衛門先生伝」がありますので知ることは容易です。そのようなわけで、本欄での紹介は、伝記部分は他にゆずり、業績についても「北海道開発局港湾空港部だより第13号」にリンクして置くのみにします。リンク先文書の5ページからをご覧ください。

私がこの北防波堤と広井勇に興味を抱いて、ぜひ訪問したいと考えたのは、先の文書6ページにある一つの事実をよく知りたかったからです。その部分を引用します。

【明治20年代の後半では、まだコンクリートの配合や強度に関しては十分に解明されていなかったことから、コンクリートの長期耐用を調べるため、北防波堤着工の前年から長期試験用供試体(モルタルブリケット)の製作を始め、最終的には昭和初期までに総数60,000個に及ぶ供試体が作られ、海中、水中、気中にそれぞれを設置しその耐用を調べている。その大部分すでに試験済みだが、100年経った現在でもまだ約4,000個が保存されている。(耐用試験は平成14年に終了)】

概説書などでは触れられているものの、どのような供試体でどのような試験をしたのかなどは、余り広くは知られていません。それが目の前にありました。写真6中央下のひょうたん形のものが供試体(ダミー?)で全体が試験装置です。(許可を得て撮影しています。)この形態からわかる様に、つまりは、引っ張り試験を行ったのです。当時はまだ、コンクリートの試験方法などは確立していなかったのでしょう。これを見ることが出来ただけで、今回の訪問は十分な成果と言えます。
モルタルの混合は写真7に示します(ガラスケースの中なのでちょっと見づらい。)。全体はまるで電動薬研の様な雰囲気です。中央の丸いものが薬研車の役割というわけです。

         
   写真6 長期試験用供試体試験装置    写真7 標準混合機  

その他の機械も実物が展示してあり、大変興味深いものでした。また、展示物には模型や写真も多く、よく理解が出来ました。

         
   写真8 防波堤全景(左が小樽港右は日本海)    写真9 南防波堤のブロック部分  

外に出て改めて防波堤を眺めると(釣りの人が大勢いました。写真8の車はそのひとたちのものの様です。)北防波堤のように傾斜はしていませんがブロックが見えました。(写真9)

事務所の横には、写真10及び写真11のようなコンクリートブロックが置いてあり、これは一面が傾斜していますので北防波堤のものと思われます。手前の面の「ほぞ」のような部分と下側のへこみを利用してつないだだけで、全体としては傾斜によって重心をずらし、波力をやり過ごす構造のようです。

         
   写真10 コンクリートブロック@    写真11 コンクリートブロックA  

次は、もう一つの土木遺産、斜路式ケーソン製作ヤードです。写真4にクレーンが建っているのが見えますが、その下がヤードです。これについても「北海道開発局港湾空港部だより第13号」の6〜7ページに説明があります。現在は製作を止めていると言うことで、立入は出来ませんでした。

         
   写真12 斜路式ケーソン製作ヤード@    写真13 斜路式ケーソン製作ヤードA  

斜路式ケーソン製作ヤードというのは、製作したケーソンを自分の重量で進水させるためのものですから、全体は海に向かって傾いていますが、製作時の台は水平にしておかなければなりません。写真13は逆光でしたのですこし見えにくいのですが、そのための木製サンダルの様子がわかります。

この方式は当時世界初のものであったそうです。大型船の進水方式にならったと言われています。この他のケーソン製作方法には、乾ドック式があります。ドックの中で製作し、完成したら水を入れてケーソンを浮かべるもので、これも船と同じです。また、同じドック式でも、海上を輸送できるフローティング・ドック方式もあります。

私の所蔵する古い写真の中でケーソンに関する物がありましたので、参考のため掲載します。1949年(昭和24年)茨城県大津港のケーソンで、大きさは3m×5m×2.25mです。これも規模は小さいですが斜路式です。

         
   参考写真1 ケーソン製作 参考写真2 ケーソン進水  参考写真3 ケーソン浮上  

さて、小樽に来たらこれも名高い小樽運河を見なくてはいけませんので、小樽築港駅から函館本線に再度乗り、小樽に行きました。うっかり「裕次郎ホーム」を失念して撮影しませんでした。まあ本欄とは余り関連は無いので許していただくとして、昔は上り線がきたら二打、下り線がきたら三打してお知らせしていた「むかい鐘」が写真14です。これがちょうど駅舎の正面にあります。写真15の駅舎は上野駅をモチーフとして設計され、国の有形文化財に登録されています。

         
   写真14 むかい鐘    写真15 小樽駅全景  

駅前からまっすぐに続く通りの先には海が見えます(写真16)。途中にある手宮線あと(写真17)はレールがそのまま残されていて、「一時停止の必要はありません」などという標識も見えます。この線は、北海道では最初の鉄道である官営幌内鉄道(手宮 - 札幌 - 幌内)の一部として1880年に開通し、1985年全線廃止されたということです。今でも列車が走るような風情で、よく保存されています。

         
   写真16 小樽駅前から小樽港を望む    写真17 手宮線あと  

歩いて10分ほどで小樽運河に到着しました。さすがは一大観光スポットということで、大勢の外国人団体客が訪れていました。運河自体ももちろんですが、なんと言っても見所は煉瓦造の倉庫群でしょう。残念ながら時間の関係で詳しく見ることは出来ませんでした。

         
   写真18 小樽運河    写真19 煉瓦造倉庫群  

小樽にはこのほかにも観光スポットが数多くあります。建設的見地からは多くの建造物が残されていて、ひとつひとつに「小樽市指定歴史的建造物」という標識があります。その一方で、写真20の背後の高層住宅も建ち並んでいます。たいていは外観が残されているだけで内部は違う業態になっているようですが、中には写真21のように関連した施設(日本銀行旧小樽支店金融資料館)となっている場合もあり、巡ればまたおもしろいのでしょうが時間切れとなりました。

         
   写真20 石造建物と高層マンション    写真21 日本銀行旧小樽支店金融資料館  

なにはともあれ、小樽築港という、日本港湾土木の原点の訪問は有意義でした。

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